Landscape Of Ghost in AOYAMA
Posted on 2012.11.19

真夏の刺すような日差しも少し和らいできた夕暮れ時。
駆け足のぼくは、青山一丁目の交差点に差し掛かかる。
視線の先で明滅している信号機。
そのまま横断歩道を渡ろうか躊躇したぼくは、結局、他の人たちと同じように信号待ちの集団に加わった。
アスファルトの熱気に捕まった全身からは、途端にジットリとした汗が噴き出してくる。
額からとめどなく流れ落ちる汗の滴。
ひとつ、ふたつ、みっつ。ぽつぽつと足下に黒いシミを作る。
よっつ、いつつ、むっつ。コンクリートに染みこむぼくの汗。
ふと顔を上げると、信号待ちの人々の中にあの人を見つけた。
信号は赤から青に変わり、堰を切ったように夥しい数の車が目の前を横切っていった。

花火大会の見物客でごった返す神宮外苑。
その日、神宮外苑で花火を観ていたぼくとあの人は、帰りを同じくする見物客に巻き込まれないようにと、終了予定時刻よりも少し早めに会場を後にした。
だが、世の中には同じようなことを考える人はごまんといるものだ。
すぐにぼくらは人ごみにはまって身動きがとれなくなってしまった。
彼女は、背が小さい自分はつくづく人生で損をしている、と周囲の人ごみを恨めしそうに見回しながらつぶやいた。
「こういうときにさ、足が2メートルぐらい伸びたらいいのになぁって思わない?」
「あ、俺もいま同じ事考えてたけど、スカートだとパンツ丸見えだね」
なんて、くだらない冗談を言い合いながら歩き続けた。
そうして、ぼくらは青山一丁目の交差点に辿り着いた。

視界の端で明滅している信号機。
ぼくは周りの人にあわせて、立ち止まる。
その瞬間、彼女はぼくの手を掴んで、横断歩道に飛び出した。
二人のスタートの合図の様に、後方で打ち上がった花火。
横断歩道を駆け抜けるぼくらに対して、交通整備の警官が拡声器で注意をする。
夜空に咲き誇った大輪の花火は、彼女の頬をオレンジ色に染める。
意味も無く大声で笑ってしまうぼくは、いまこの瞬間が世界の中心だと思った。
明滅する青信号も、拡声器の警官も、車も、人々も、ぼくも彼女も、打ち上がっては消える花火が、全てを包み込んで行く。
次第に、夜空とぼくらの境目が溶けて無くなっていく中、繋いだ手の感覚だけをはっきりと感じる。

周囲の足音で我に返ると、そこにあの人の姿は無かった。
再び明滅する青信号に気づいて、ぼくは慌てて横断歩道に一歩踏み出す。
あの人はいま、どこでなにをしているのだろう。
横断歩道を渡りきったぼくは、ふと、そんなことを考えた。

(つづく)



大澤悠大

1984年生まれ。デザイナー。東京在住。
広告クリエイティブエージェンシーkazeproに所属。エンライトメント主催のグループ展『Here is ZINE tokyo 4』(TOKYO CULTuART by BEAMS)や若手アーティスト達のグループ展『FERTILE SOIL』(原宿ROCKET)などに、デザイナー・アーティストとして参加。主な受賞に、第25回全日本DM大賞金賞、TOKYO TDC 2009入選、など。


元澤英悟

脚本家
2012年『理容師』で第65回カンヌ国際映画祭シネフォンダシヨン部門にノミネート。
他、脚本参加作品に『紙風船』『桐島、部活やめるってよ』WOWOWスピンオフドラマなどがある。
http://www.facebook.com/eigo.motozawa
メッセージはお気軽にどうぞ!
文章:元澤英悟 Design:Yudai Osawa の記事一覧
12-11-19  Landscape Of Ghost in AOYAMA

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