夜、家を抜け出して、2人で何処かに行くような
Posted on 2012.11.19
written by 眞田康平

一応、映画監督の肩書きだけれど、このたび“何か書いて”と言われて、つい自分の好きな漫画について、テーマも緩めにああだこうだ書こうかなと思っている。と、いうのも、自分は映画監督なのに映画見るより漫画読んでた時間が多かったので、作品の発想とか脚本の台詞とか、ほとんど漫画に影響を受けている。多分、個人的な文章になっていくけれど、新しい映画の企画に繋がるような話にはしたい。さらに映画化したい漫画なんてのも紹介していきたい。まあ、今回は映画にしたいか!と聞かれても、是非したいんだけど難しいですよねぇ。とか言ってしまいそうな作品ですが。

『Kira Kira! キラキラ! 安達哲 全6巻』

僕の高校生活といえば、それなりに勉強して、美術室でさぼって、クラスで組んだバンドでナンバーガールのコピーをして全然受けなかったり、なんとなくは満足してるけど、どうしても文化系男子特有の青春に対しての負い目が残っている。負い目というか、それは憧れみたいなもので、その時の僕はその鬱屈とした何も無い場所から、抜け出せる瞬間が、もしかしたら勝手に向こうからやってくるかもしれない、なんてぼーっと妄想するしか逃げ道が無かった。

妄想の中のその場所では、近くに友達が住んでいて(もちろん一人暮らし!)、みんなですぐ酒飲んで、馬鹿やって、たまに夜一緒に歩いてくれるような女のコがいる。そんな妄想に、今でさえ、憧れは消えない。自分はずっとそうやって生きてみたかったと、こんな歳になってもまだ思ってるんだろう。

安達哲の「キラキラ!」には、そんな憧れだった瞬間が詰まっている。

特に2巻で、恵美里と慎平という主人公2人が家を抜け出して、あても無く夜の町を彷徨うくだりが、この漫画の中で一番好きなんだけど、そこで2人が向かうのは、井の頭公園だった。東京特有の濃密で、何かが起こりそうな夜に本当にドキドキさせられる。高校生の僕には井の頭公園が足りなかったのかもしれない。石川県の田園風景ではこうはいかない。
何度も繰り返される、抜け出して夜2人で何処かに行く場面が、夜遊びを覚えたての何かから解放されたあの感じと、小さい罪悪感がまざりあって、とっても魅力的だ。
でも、その憧れの瞬間は、当然のように損なわれる。「安達漫画」の必然で、外部からの抑圧によって(大概が最低な大人によって)そのユートピアは崩れる。
そして、憧れに実際足を踏み入れることは、痛みを伴うということだ。とこの漫画は言い続ける。
天使みたいに見えたあのコは、当たり前のただの女のコで、天使では無い。知れば知る程、見たく無かったものを知っていかなければならない。そこで足を踏み外してしまう人もいれば、傷つけあいながらも理解して変わっていくのが成長するってことなんだろう。読み返すたび、未知の世界に飛び込んでいくような、訳も無く走ってしまいそうな気持ちと、その反対でどうにも耐えられないほどの痛さが一緒くたになって襲ってくる。そして毎回それが青春そのものだと思う。

終わりの予感される楽園は切ない。結局、失ったユートピアそのものを取り戻すことは誰にだって出来ない。時間は止まらないし、高校生は卒業する。憧れた世界も、この世で一番幸せな瞬間も、いつかは終わりがやってくる。青春もいつか終わる。そしてまた新しい始まりの朝がやって来て、みんなそれぞれやっていくしかない。誰だって他人にはなれない。

 

「おわりだよ杉田 この四角いコンクリートの建物にいる間だけだよ

なにひとつ疑わず 好きな女のコに夢を見てのめりこんで宗教的信仰にまで高めるのは

制服きてる連中にしか出来ない能力だよ」

 

終わるから愛おしいし、続かないから切ない。だからこそ僕らは青春に憧れ続けるのかと最後まで読んで思った。ずっとずっと終わらないでほしい時間があるのは、それが幸せだということなんだろう。
そして、いつまでも、終わらないものはあるのか、その問いを残して漫画は終わる。
キラキラしたそれは、光って、そして尖っている。

そして、大人になってしまった僕は、井の頭公園の近くに住んで、池に映る青春を眺めている。手に届くように見えて失われてしまった東京のある一瞬。そこへの憧れは当分無くなりそうも無い。

 

(続きます)

眞田 康平

1984年石川県出身。2007年、金沢大学教育学部卒業。 株式会社ピラミッドフィルムに制作部として勤務。 2009年、東京藝術大学大学院映像研究科入学。主な監督作品に、 『紙風船(第二話「命を弄ぶ男ふたり」)』(10)『しんしんしん』(11)。 『しんしんしん』は今年のNIPPON CONNECTION(ドイツ)にて上映され、 2013年初頭、渋谷ユーロスペースにてレイトショーが決定。 順次、全国主要都市で公開準備中。
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